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薬の服用と自動車の運転について―規制の強化とその後の変化―

薬の服用と自動車の運転について―規制の強化とその後の変化―

皆さま、こんにちは。里村糖尿病内科イオンタウン東浦和院、脳神経内科の田中です。

今回は薬の服用と自動車の運転について、歴史的な背景、規制の内容、最近の変化を含めて詳しく説明します。

自動車の運転に制限のある薬には、どのようなものがあるの?

医薬品の使用上の注意や効能、副作用などの重要事項を記載した文書を「添付文書」と呼びますが、その中に自動車運転に関する制限の記載がある薬があります。

抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬、認知症治療薬、パーキンソン病治療薬、神経障害性疼痛(しびれ)治療薬など、精神科、心療内科、脳神経内科などで専門的に処方される薬が多いですが、睡眠薬、抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)、鎮咳薬(咳止め)、総合感冒薬、消化器系薬、循環器系薬、糖尿病治療薬など、一般内科で処方される薬も実はたくさん含まれています。

医薬品服用時の自動車運転に関する規制強化

規制強化の経緯について

元来、道路交通法(第66条、過労運転等の禁止)により、「何人(なんびと)も、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない」と定められていましたが、2011年から2012年にかけて、持病(てんかん)のある方による大きな自動車事故が続けて発生し、病気や薬剤による自動車運転への影響が注目されるようになったことがきっかけとなって、規制がより厳しくなりました。

具体的には、2013年5月に厚生労働省から、「添付文書の使用上の注意に自動車運転等の禁止等の記載がある医薬品を処方又は調剤する際は、医師又は薬剤師からの患者に対する注意喚起の説明を徹底させること」との通達がありました。

さらに、2014年5月から施行された「自動車運転死傷処罰法」において、薬または病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転して死傷事故をおこした場合、「危険運転致死傷罪」としてより厳しい罰則(最大15年の懲役)が適応されることになりました。

規制強化の問題点について

しかし、日本においては、意識障害などの副作用報告のある薬について、添付文書に一律に運転禁止と記載されていることが多く、十分な科学的根拠に基づいて判断されたものではなかったり、海外での規制と比べて明らかに厳しかったりするという問題点があります。

また、本人の病状を含めて、実際の状況を見て総合的に判断するというような指針がないため、薬の服用により今ある病気の症状が改善して、自動車の運転がむしろより安全にできる状態になったとしても、添付文書の記載を画一的に遵守すると、自動車の運転ができないことになるという矛盾が生じます。

具体的な例を挙げると、不眠症の方が睡眠薬を内服することにより、十分な睡眠がとれるようになって日中の眠気が大きく改善し、それまでより安全に運転できるようになったとしても、運転が禁止されるということです。

規制強化後から現在までの変化について

規制強化直後の医学会の動き

このような状況を改善するため、医学会からは様々な声が上がりました。

2014年6月、 日本精神神経学会は「患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン」を作成し、その中で、「道路交通法第66条の規定は遵守されるべきである。しかし、副作用の出現の仕方には個人差があり、処方を受けた者全員に運転を禁じなければならないほどの医学的根拠はない。実際にこれらの薬物の投与を受けている者が運転に従事しており、実態にもそぐわない。処方する医師としては、薬物の開始時、増量時などに、数日は運転を控え眠気等の様子をみながら運転を再開するよう指示する、その後も適宜必要に応じて注意を促す、といった対応が現実的であろう」と記載しています。

さらに、2014年10月、日本てんかん学会は「抗てんかん薬の薬剤情報添付文書における自動車の運転等に関する記載についての見解」を発表し、「添付文書における自動車運転等の禁止等の記載は、『抗てんかん薬を服用するすべての患者』に適用されるのではなく、『自動車運転等に支障をきたす副作用が生じていると考えられる患者』にのみ適用されるべきである」と述べています。

添付文書の自動車運転に関する記載の見直し

このような医学会からの働きかけによって、添付文書の自動車運転に関する記載の見直しが、少しずつですが進んできています。

2016年11月には、抗うつ薬のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(ミルナシプラン、デュロキセチン、ベンラファキシン)の運転禁止の記載が修正されました。

また、2024年12月には、「向精神薬が自動車の運転技能に及ぼす影響の評価方法に関するガイドライン」が作成され、従来の画一的な運転禁止の記載を、科学的根拠に基づいた適切な注意喚起へと転換させるための、統一された基準が提供されました。

さらに、2026年3月には、てんかん治療の第一選択薬として使用される5薬剤(カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム、ラモトリギン、ラコサミド、レベチラセタム)について添付文書が改訂され、てんかんに係る効能に限ってですが、医師が個別の患者の状態に応じて、自動車運転の適否を判断することができるようになりました。

当院での方針

当院では、日常的に運転されている方について処方を行う場合、運転禁止薬の代わりとなる薬がある場合には、代替薬への変更を行います。

また、もし代替薬がない場合で、疾患・症状から同薬の内服が必要と考えられる場合については、以下のように対応させて頂きます。

  • 現在の病状および薬の内容から、医学的に運転を控えるべきと考えられる場合には、その理由について丁寧にご説明させて頂きます。
  • 上記に当てはまらない場合、以下の点についてご説明させて頂き、ご納得いただいた上で、薬の処方について検討致します。
    • 薬の服用と自動車運転に関する日本での規制の現状
    • 薬を開始または増量してから、少なくとも数日間は運転を控えること
    • その後も体調・病状の変化や薬の副作用に気を付けて生活し、運転に支障や不安のある場合には運転しないこと

また、事故を起こす危険性をより下げるため、運転時間を制限することが望ましいと考えられる場合には、以下のような工夫についてお勧めをさせて頂きます。

  • 運転時間を短くする
  • 運転頻度を減らす
  • 混雑時間帯、夜間、悪天候での運転を避ける
  • 高速道路での運転を避ける
  • 慣れ親しんだ自宅近辺のみを運転する
  • 家族が同乗するときのみ運転する

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